FIREブームの原典「お金か人生か」が暴く「現代の病」とは

こんにちは。林です。

FIREブームの火付け役として知られる「お金か人生か」(ヴィッキー・ロビン、ジョー・ドミンゲス著)を読みました。正直、FIREに興味のない人も、これからの人生を幸せに生きたいなら、必読の1冊だと確信しました。

本記事では本書の根底に流れる主張、なぜこれほどまでに本書が共感を呼び、受け入れられるのか?また、私達日本人はFIREをどう捉えるのがいいのか、について僕が本書で感じたこと、僕の意見も交えてお伝えします。そこには、現代の私達が抱える社会の「病」が隠されていました。

理解の鍵は「時間を失うことによるコミュニティの危機」です。

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目次

FIREの原典、8割が「生き方」へのアドバイスだった!

まずは本書の主張を紐解いていきましょう。

本書の著者、ヴィッキー・ロビン氏とジョー・ドミンゲス氏はFIREブームの最初の火付け役と言われています。まさにFIREの原典とも言える存在ですね。出版は1992年ですが、著者の1人ドミンゲス氏は1969年に既にセミリタイアを果たしています(1997年がんで死去)。ロビン氏も持続可能なライフスタイルの実践者、第一人者として知られているそう。持続可能性とFIREって、相性抜群ですよね。

本書が生まれる前の20年間、ロビン氏がドミンゲス氏のアイデアを元にFIREの伝道師としてセミナー、執筆、講演活動を精力的にこなしていました。そのため1992年時点で米国にはFIRE実践者がかなりいたようですね。そういう背景もあって、本書もたちまちベストセラーになったんだろうと思われます。

さてそんな本書の中身はどうなっているのか、気になりますよね。僕もどんな内容なんだろうとワクワクしながら読み進めましたが、当初のイメージとはだいぶ違う内容で、いい意味で期待を裏切られました。なんと、FIREのための投資手法等の解説は、本書の最後、8章と9章だけの2割ほどしかありません

前半8割の7章までは「より良く生きる方法やマインド」について詳しく書かれているんですよね。この部分が他のFIRE本との決定的な違いになっています。タイトルの「お金か人生か」はまさに「名は体を表す」で、この前半8割の部分で、「あなたはお金を選択しますか?それとも人生を選択しますか?」と問い、そして解決策を提示していくわけです。

もちろん、お金を捨てろみたいな怪しい話ではなく、お金と人生のよりよい調和を目指すことを説いています。本書では最も調和のとれた点を「十分(じゅうぶん)」と表現。十分の点よりも少なくても不満、多くてもただのゴミになる。このあたりのロジックが明快で、さすが持続可能の第一人者のアイデアだと唸らされます。

人生を最大限輝かせ楽しむために、お金と人生の最高の調和を目指す。「自分にとって」の「十分」を知り、それ以上は「ゴミ」だと知る。本書の主張は、まさにこの点に集約されていると思います。

FIREがなぜこれほど多くの人の共感を呼ぶのか?鍵は「コミュニティの危機」

本書の出版後、たちまち大ベストセラーになり、多くの人の共感を得、一大ムーブメントになっています。一体なにがそうさせているのでしょうか。

米国市場が好調だったからその波に乗っただけ?いえ、決してそうとは言えません。FIREの活動は1992年より随分以前から始まっており、その間インターネットバブル崩壊やリーマンショックなど、いくつかの暴落相場も含まれていますからね。

実は、FIREを一部の特殊な活動として一蹴するわけにはいかない深い理由があるんです。キーワードは「家族・コミュニティの危機」です。

僕の拙い知識の範囲内で恐縮ですが、この本質的な問題を理解するために、いくつかの例を挙げてみましょう。

人類史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は著書「サピエンス全史」で、人類の文明が、幸福を達成したとは断言できないと指摘しています。さらに物質的な富は確かに初期の幸福をもたらすが、一定の水準までに留まること、また家族やコミュニティは強大化する国家や市場によりその絆を弱められ、幸福度は低下しているとも指摘しています。

次に、人生100年時代で著名なリンダ・グラットン氏、アンドリュー・スコット氏は著書「LIFE SHIFT」で、健康、家族、友人関係という無形資産の重要性を指摘しています。彼らをこれらを「活力資産」と呼び、自己再生をもたらす上で大きな役割を果たすと指摘しています。「LIFE SHIFT2」でも結婚観が変わるかもしれないが、絆の大切さは揺るがず、むしろ激動の時代を乗り切るために、相互依存を強めるべきだと主張しています。

さらに独立研究者の山口周氏は著書「ビジネスの未来」の中で「精神的孤立あるいは精神的飢餓が大きな課題」であると指摘し、生産者と消費者とが互いに「顔の見える関係」にすることが重要だと指摘しています。現代において生産効率を高めるために極度に合理化されたバリューチェーンが、皮肉にも「(広いコミュニティにおける)助け合う精神」という経済の根本部分の危機を招いている、というわけです。

歴史、ライフ、ビジネスという異なる分野の専門家のいずれもが、家族・コミュニティ(広い意味での人間同士の精神的つながり)の危機的状況や強化を訴えています。これは一体どういうことでしょうか。

これら著者は本を記した年も専門も思想も住む場所もバラバラです。にも関わらず、同様の主張が現るのは非常に興味深い共通点です。家族やコミュニティの弱体化とそれに伴う幸福度の低下は、近代共通の危機意識として世界中にあるのではないでしょうか。だからこそ、絆を復活させる取り組みであるFIやFIREが、米国のみならず、日本でも共感を生み、こうして実践者を増やしているのだと考えます。

FIやFIREを実践し、家族やコミュニティと関わる時間を増やせば、失った絆を少しずつ回復し、徐々に強くすることもできるでしょう。

FIREは単に不労所得で楽してウェイウェイして生きようぜ、などという薄っぺらい話ではないのです。なんなら人類の幸せの根幹を揺るがすほどのインパクトを持ち得る取り組み、とすら言えるかもしれません。

あなたには、失った絆がありませんか?今からでも遅くはありません。FIRE実践を通じて大切な人との絆を修復し、取り戻していきましょう。

自らの「幸せを取り戻す」ストーリーを描こう

ではどうすればいいのか?具体的には本書を紐解いて頂くとして、僕はFPですから、お金の専門家として、必ず意識しておいて欲しい事を最後にお伝えしようと思います。

本書の中で「FIREは一部の人にとって長期休暇の連続のようなもの」という表現が出てきます。LIFE SHIFTにも「マルチステージ」という概念が出てきますが、これは人生100年において従来の3ステージモデル(教育→就職→老後)が破綻し、4つも5つもステージが現れる事を予言しています。

ただ、あるステージから別のステージに移るには当然、準備が必要です。特に全く新しい仕事に移るにはスキルアップや人脈形成など相応の努力と時間が必要です。そのため、LIFE SHIFTでも余暇時間で自分を磨き高める「リ・クリエーション(再創造)」を提唱しています。

欧米には「サバティカル」といって、在職中に1年2年程度の長期休暇を取れる制度があります。日本でもヤフーや全日空など一部の企業で導入されているようですが、まだまだ少数派。むしろ未だに違法残業を含むブラック企業が横行しているのが現状でしょう。

そこでFIREの手法を用いて「自分サバティカル」を用意する方が、日本の労働環境に適しているかもしれません。FIRE後、一生働かないという「意味不明の厳しい制約」を課す必要なんて全くなく、働きたくなったらまた働いたらいいわけです。必要に応じてFIRE中に自分を磨き、次の「新しい仕事」への準備をすればいい。

FIREを「早期退職→一生働かない」という特定パターンに矮小化するのではなく、人生100年を上手に、幸せに生きる手段と柔軟に捉えて欲しいと思います。

そう考えれば、FIREって一部の特殊な人の話ではなく、人生100年時代の、誰でも検討する価値があるスキルや生き方だと思えてきませんか?

自らを幸せにするためのFIRE、ライフプランを描いていきましょう!

「お金か人生か」書評まとめ

以上「お金か人生か」について、読後の感想をお伝えしました。話がいろいろな所に飛んでしまいましたが、それだけ示唆に富む、濃い内容であったことは間違いありません。

もう一度、ポイントを振り返っておきましょう。

  • 自分にとっての「十分」を知り、それ以上は「ゴミ」と知ることで、お金と人生の最高の調和を図る。
  • FIREが共感を呼ぶのは家族やコミュニティの失われた絆を取り戻す物語だから。
  • FIREを単なる早期退職の手段と決めつけず、自分サバティカルのように人生100年を幸せに生きるために活用しよう。

誰もが幸せになりたいはず。ならば広い意味でのFIREは、全員目指すべきでしょう。

あなたもぜひ、本書で幸せな人生を歩むヒントを掴んでください。

お金か人生か」(ヴィッキー・ロビン、ジョー・ドミンゲス著)

それではまた!

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