こんにちは。林です。
以前から学びたいと思っていた行動経済学。FPはパーソナルフィナンスが対象となるため、個人の「非合理的」な行動を説明する行動経済学は、そのままコンサルティングに活かせます。というか読んでると僕もめっちゃ非合理的やなって、思わず唸ってしまいます(苦笑)
さてこの行動経済学を魅力いっぱいにお伝えしたいのですが、僕は行動経済学の専門家ではないので、どうしたものかと。そこで今回学んだ行動経済学入門(筒井義郎ら)というテキストを手がかりに、面白く、役に立ちそうな内容を厳選してお伝えします!
短い記事ですので、ササッと読んで、概要だけ掴んでください!
この記事の概要
・行動経済学を知らない方のために、短い概要をお伝えします。
・行動経済学の特徴をつかんでもらうために、身近な事例を2つお話します。
では始めましょう。
目次
本記事はこちらのテキストをベースにしています。
ただ、この本だけでなく行動経済学の書籍数冊を元に「面の読書」技法(→参考記事 【勉強家必見】点から面への読書に進化する方法!「鈍器本」独学大全の魅力と、技法のご紹介)で理解を深めています。ですので、本のレビューをメインにしつつ、僕の学びのアウトプットの面もありますので、その点ご了承ください。本の詳細は記事末尾にまとめました。
行動経済学は伝統的な経済学を否定するのではなく、それを拡張し、適用範囲を広げるのが目的です。例えば伝統的な経済学では、完全無欠で、完璧な人間を仮定しますが、まぁ実際問題、完璧な人間などありえません。僕なんてあきれるほどいつも計画が後ろにずれ込んでしまいます。すいません。ごめんなさい。
そこで行動経済学では、この完全無欠な人間モデル(ホモエコノミカスと呼ばれます)を修正、拡大し、その拡大部分に理論を構築していくことになります。イメージとしてはこんな感じ。
これで僕も人間になれる気がします。(笑)
完全無欠ではなくなるわけですから、どこか人間臭いモデルとなるのが行動経済学の魅力の一つ。「あ、それあるある!」と思わず心の中で叫びたくなる知見が満載です。では具体的にどこがどう修正されるのか。全てを書ききるのは難しいので、僕の理解の範囲内でポイントをご紹介しますね。
古典的な経済学が仮定するホモエコノミカスさんは、100%完全に合理的。知的なスーパーマンで、感情に左右されず、計画したことは100%達成します。んなわけないやん…(苦笑)と思わず突っ込みたくなりますよね。
行動経済学では「時間選好(じかんせんこう)」で、計画したことを後悔する仕組みを取り入れています。また、「プロスペクト理論」からは、人間が感情に左右されて取引を実行したり、非合理的な計画を立てることも理解できます。後で事例でお話する心の会計にも、プロスペクト理論が関連することがあります。
さらには知的スーパーマンどころか、人間にはそそっかしいところがあって、多くの判断を深く考えずに「経験則」だけで結論づけたりします。この経験則のことをヒューリスティクスと言います。
このように行動経済学では人間を人間臭いまま、定式化しようと試みるわけですね。ただ、だからといってホモエコノミカスの全てが否定されるわけではありません。人間の一部には、相変わらず「合理的」な部分があるからです。これを限定合理性と言っています。合理的なところと非合理的なところが共存する…それが人間なのかもしれません。
古典的な経済学は人はみな自分の利益しか考えない、と仮定しています。これを完全利己性(かんぜんりこせい)と言うそうですが、まぁ、これもちょっと違和感がありますよね。確かに自分の利益を考えるのは当たり前ですが、決してそれだけで行動しているわけではない。
行動経済学では「社会的選好(しゃかいてきせんこう)」という枠組みで、自分のことしか考えないのか、あるいは相手の事や社会のことを考えながら行動しているのかを解き明かします。実験結果からは、自分の利益と社会の間でもがく(?)人間像が浮かび上がってきて、とっても面白いです!
さて、以上で概要のレビューはだいたいできてると思うのですが(え?全然不十分ですか?^^;)以下はもう少し具体的に、行動経済学的に面白そうなトピックを僕の意見も交えてお伝えしてみます。
FPとして一つ押さえておくとすればこの「心の会計(メンタルアカウンティング)」は外せないと思います。
人間は心の会計という、バーチャルな家計簿を頭の中で管理してて、その会計がまた感情的であったりするために、非合理的な意思決定をしたり、バイアスが掛かったりしてしまいます。
1981年に発表されたトヴェルスキーとカーネマンの研究成果が紹介されてました。心の会計の効果がわかりやすく、面白いので、引用しておきます。
(シナリオA)当日券が50ドルのコンサート会場でチケットを買おうとしたところ、50ドル札を失くしていたことに気づいた。50ドル出して当日券を買うか?
(シナリオB)前売り券を50ドルで買ってコンサートに行ったところ、このチケットを失くしたことに気づいた。当日券も50ドルで買えるが、買うか?
行動経済学 経済は「感情」で動いている(友野典男)P196より
Aで「はい」と答えた人は88%、でBは46%。なんとBはAの半分近くになってしまうわけですね。100%合理的なホモエコノミカスさんであれば、AでもBでも同じ回答になるはずです。だって、当日チケットを買う状況は、AもBも50ドルを失った状況で、同じですから。でも実際の人間の回答はここまで変わるわけです。
この現象を心の会計で説明すると、Aは心の会計である「交遊費」をまだ使っておらず、まだ予算があると判断。逆にBは既に交遊費のうち50ドルを消費しているのでこれ以上使いたくない、という判断がなされた、と解釈できます。
このように心の会計は実際の合理的な判断を妨げる強い力となりえますので、合理的な判断をしたいと考えるなら、注意が必要です。僕たちFPも、自分自身が罠にはまらないよう気をつけるのはもちろん、顧客にもこうした影響があることを伝えていく必要があると思いました。
経済活動の中でも、投資といえば、特に100%自分の利益を追求するもの!と考えられていると思います。僕も、直感的にはそう思います。
ただ、近年はこれとは違う動きも出てきているように思います。例えばESG(環境・社会・ガバナンス)投資。一見、素晴らしい投資に見えますが、環境や社会に配慮することはコストがかかることであり、100%自分の利益を追求する投資とは相容れません。
しかしESG投資は近年世界的に拡大していて、2020年には35兆ドルを越えています(→【金融】世界と日本のESG投資「GSIR 2020」の統計|Sustainable Japan)。ドル円110円とすれば、3,850兆円と、日本のGDP500兆円の7倍以上と、桁違いに大きな投資額に膨れ上がっています。
これは一体、どういうわけでしょうか?
以下は個人的な分析ですが、近年、ESG投資額が増加してきた背景には、戦略的互酬性(せんりゃくてきごしゅうせい)がESG投資の中に見いだされてきたからかもしれません。戦略的互酬性とは、相手が利益を返してくれることを期待してこちらから投資をする行為を指します。
投資先に直接的な利益とならなくとも、環境や社会といった「全体」に利益があれば、回り回って自分のところに返ってくるかもしれない、と期待して投資するわけですね。
ESG投資のリターンが自分のところに返ってくるのはとても時間がかかります。しかしここで、世界経済の成長率が長期的に低下していく予測を踏まえれば、また違った世界が見えてきます。
FPならばすぐおわかりかと思いますが、成長率が低下する→期待利回りが低下する→割引率が低下する→より長期間待つことの価値が増えていく→ESG投資に有利な環境、となります。
あくまで推測ですが、この世界成長のトレンドは30年前(1990年代頃)ぐらいから分かっていたものです。もし人類がホモエコノミカスさんであれば、そのトレンドをいち早く察知し、急速にESG投資に舵を切っていたかもしれません。が、ESG投資が膨らんできたのはここ10年の話で、随分立ち上がりが遅いようにも見えます。これは行動経済学の「時間選好」が影響しているかもしれません。
つまり、1990年代はESG投資よりも利益が取れそうに見えた投資案件に目が奪われていたので、長期的に先のことは軽視しがちだった、と言えるかもしれませんね。ようやく最近、その重要性に気づけてきたのかもしれません。
まぁもちろん、これは僕の個人的な分析でしかなく、正確なところは研究結果を調べてみないと分かりません。戦略的互酬性や時間選好で説明するのが正しいかどうかも、僕にはそこまで分かりません。しかし投資が完全に利己的な合理性だけでなく、近年多様化しているというのは言えるのではないでしょうか。
行動経済学には他にもヒューリスティクス、時間選好、プロスペクト理論、行動ファイナンス、幸福の経済学、実際の応用(ナッジ)、などなど、たくさんのトピックがあります。
ただ、僕の力量でたかだか1記事で行動経済学の全てを分かりやすく伝えるには無理があります。なので、短い概要と面白そうな事例を2つ挙げて、行動経済学の面白さと特徴を伝えてみました。この広大な学問の、ほんの一端でも伝わりましたでしょうか?(汗)少しでも伝わったよ!って方は、Twitterでいいねやリプもらえるとめっちゃ嬉しいです!
改めて、本記事のポイントをまとめると
です。
この記事で行動経済学に興味を持たれたならば、これ幸いです。その勢いで、こちらの参考文献も手にとってみてください。いずれも良書だと僕は思います。リンク先はAmazon。迷ったら1番上をお勧めします。
それではまた。
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