保険業法等が改正されて保険会社や保険代理店、保険募集人がその対応に追われているのはご存知のとおりかと思います。
その一連の改革の中で「保険募集人の体制整備に関するガイドライン」が出てきましたが、その中に衝撃の一節を見つけてしまいました…。
目次
生命保険協会が平成30年4月に公開した「保険募集人の体制整備に関するガイドライン」という資料があります。
これは平成26年の保険業法等の一部改正に伴う保険募集人の体制整備をする必要がありますが、そのガイドラインを示したものです。
あくまでもガイドラインですので法的拘束力はなく、ガイドラインに沿って体制整備してくだいというモノになりますが、これを読んでいて衝撃の一節を見つけました。
同ガイドラインの11ページ目にあるその部分を抜粋しますと
海外だけでなく国内で実施する場合も含めて、保険会社による乗合代理店に対する表彰・研修について、宿泊数や研修内容、行き先等に照らして、社会通念からみて過度と考えられるインセンティブの獲得を目的に特定の商品を提示・推奨する場合、乗合代理店は顧客にその提示・推奨理由(当該インセンティブの獲得が目的であること)を分かりやすく説明する必要がある。
です。
これ、どういう意味だか分かりますか?
保険営業に携わったことのある人ならご存知だと思いますが「研修」という名の海外旅行がありますよね。
保険営業の上位入賞者はその「特典」として海外で開催される研修に招待されるというものです。
研修という名は付いているものの事実上の「現物報酬」。
例えばプルデンシャル等の外資系保険会社は派手だという「ウワサ」もあります。
これをインセンティブ(販売報奨金)といって、上記のガイドラインは「過度なインセンティブ」を獲得する目的で商品を推奨する場合は、顧客にその事を説明しないといけないといっているわけです。
これ、保険営業、保険募集人や保険代理店からいえば「そんなこと出来るわけ無いじゃん」ですよね。
分かりやすく表現すれば
「私、この度海外旅行に行きたいので、この保険をあなたに推奨しています」
と言わないといけないわけです。
顧客の本音からすれば「そんなアホな話あるか」って感じで
「研修だかなんだか知りませんが、スンマセンがあなたの海外旅行とかには興味無いので、同じ保障でもっとリーズナブルな保険ありませんか」
となるわけです。
今まではその事について触れる必要が無かったわけですが、ガイドラインで顧客にその事を説明する必要が明確に示されました。
こうなると、過度なインセンティブ目的の保険営業は非常にやりにくくなるのは明白です。
ただまぁガイドラインにも抜け穴はいろいろありそうで、例えば「過度」というのはどれぐらいが過度なのかとか、提示、推奨といってもなにが提示でなにが推奨なのかというそもそも論を持ってくる事もできるでしょう。
そういう意味ではまだまだ議論の余地はありますが、近年の金融庁の本気度を甘く見るべきではありません。
いずれ、このようなインセンティブは過度かどうかに関係なく、縮小・廃止の方向に向かっていくと考えられます。
もちろん、今まで全ての保険募集人が過度なインセンティブを目的に保険を販売していた、というつもりはありません。
中には顧客に寄り添い、顧客にとってベストな保険を真剣に考え、提案していたFPもいたことでしょう。
ですが、今までそうしたFPは「冷遇」されてきました。
なぜなら保険会社から見てそういうFPは「売上が少ない」からです。
顧客にとってベストな保険というのは、当然ながら
こうした顧客目線を徹底すると何が起きるかというと売上や利益が(一時的に)下がります。
(でも本来、顧客目線の保険は顧客を喜ばせ、LTV向上につながるため、長期的に経営に良い影響を与えますがそんな事は考えてないように見えます)
当然ですよね。
必要十分以上は売らない、過度な保険料の保険も売らない、となれば売上が(一時的に)落ちるのは必然でしょう。
しかし保険会社としてこれは他社との競争に売上で負けることを意味しているので、短期しか見ない経営者は看過できません。
ある意味これを防ぐために、社会通念の限度を超えた過度なインセンティブが横行していたわけです。
これを、金融庁は本気で「問題視」しています。
このように方針転換したのは保険が既に成熟商品(コモディティ)であり、これ以上、過度に普及させる必要はないと判断したためと僕は考えています。
昔であれば、多少コストが高かろうと、保険が全く無いよりは保険を契約した方が万一の保障が得られ社会全体の安心、安全が高まるという意味や意義がありました。
そのためには、多少「派手」なインセンティブもやむなしというスタンスだったかもしれません。
また、高度経済成長の中にあって顧客自身にも、そうした自分に関係無いことでも許せる「懐(ふところ)」があったことでしょう。
しかし今の時代はどうでしょうか。
必要な保障はもちろん必要ですが、それに加えた「過剰な保険」も多いのではないでしょうか。
また過剰な保険を契約し続けるだけの体力が顧客にあるでしょうか?
なかなか難しいですよね…。
この過剰な保険は家計を蝕むため、顧客のためにならないと判断したと言えます。
したがって、保険会社および保険募集人のトレンドは
なぜこうしたトレンドになっているか?
理由は結局、以前から言っている「顧客本位」です。
これからこの顧客本位の姿勢が徹底的に問われていきます。
現に金融庁は保険販売の現場が本当に顧客本位を目指しているのか、立入検査までして調べようとしています。
今までの常識は、もはや「過去の遺物」と考えた方が良いでしょう。
そして本気で顧客本位を追求すれば上で述べたように「売上は落ちます」。
落ちた売上をどう回復するかについては新たな収益源を模索するしかないですが、何をするにしても忘れてはいけないのはこれからは「顧客本位」が重要ということです。
それが出来なければ、保険販売とは別の事をしたとしてもいずれうまく行かなくなります。
(すぐに金融庁の指導が入るでしょう)
一つの試金石としては顧客から相談料(フィー)がもらえるFPかどうかです。
つまり保険に価値があるかどうかではなくあなた(FP)自身に価値があるかどうか?
これを問われる時代になってきたということです。
この点について当サイトやメルマガでは保険業法が改正される以前から、何度も指摘してきました。
はっきり言って、FP自身に価値があるかどうかというのは当たり前の話だと思うのですが、保険が売れてその手数料やインセンティブで潤っていた時代は、その当たり前の課題から目を背けていられただけですね。
でも保険営業に頼れた時代も間もなく終わるでしょう。
そろそろ行動しなければ、手遅れになるタイミングかもしれませんよ。
本気で顧客本位を実現できるアイデアがあるなら、経営環境の厳しい保険代理店も面白いかも知れません。
FIREブームの原典「お金か人生か」が暴く「現代の病」とは
外貨建て保険に逆風?金融庁が新たな共通KPIを導入。その中身とは!?
【セキュリティ対策】恐怖!アカウントが勝手に作成された!?対処法と心構えについてシェアします
LIFE SHIFT2 から学ぶ、先の見えない時代のFPの役割とは
知識を積み上げる!年末年始に読み込みたい、お勧め厳選3冊!
「配当節税二重取り」の穴が防がれる?令和4年税制改正大綱で判明。さらなる対策とは?
FPも顧客をお金もちにする?「行動経済学入門」カンタンレビュー
70年代に逆戻り?日本はもう先進国とは言いにくい。個人はどう対策すべき?
【勉強家必見】点から面への読書に進化する方法!「鈍器本」独学大全の魅力と、技法のご紹介
【初心者向け】FPにとってのネットメディアの役割を図解で説明
コメントフォーム