契約事務の効率化!?民法改正と利用規約の作り方の注意点

こんにちは。行列のできるFP事務所プロデューサーの林です。

2017年5月に成立した改正民法が、2020年4月1日から施行されることとなりました。士業事務所やFP事務所として「利用規約」を作成している人は、関係がありますので、要チェックです!

うちの事務所も利用規約を活用して業務効率化してますが(個別の契約とか、非効率でやってられません…)、来年4月1日から運用を見直す必要があるため、調べてみたので記事にしてシェアしますね。

本記事のポイント

・主にオンライン(1対多)での契約に便利な利用規約が正式に利用可能になる。
・2020年4月1日執行の改正民法が事務所サービス利用規約に与える影響とは?
・利用者に対して利用規約が契約内容となることの明示が必要(ボタン等で同意が取れればベスト)。
・利用規約のうち利用者に一方的に不利になる条項は無効となるなど、注意が必要。これは利用規約を変更する場合も同じ。
・利用規約の変更は、「周知」の手続きを踏む必要がある。
・特に顧客にとって必ずしも利益とならない変更の場合は「事前に」周知する必要がある。

では早速見ていきましょう。

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目次

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契約事務を効率化してくれる「利用規約」

士業事務所でもFP事務所でも、顧客との契約は必要になりますよね。

契約するときに一番手堅い手続きは、顧客ごとに契約書を作成し、事務所と顧客それぞれで署名、捺印して…というのだと思います。

ただこれって、面倒くさいし、非効率じゃないですか?

顧客が必ず物理的な事務所に来てくれる場合はまだいいとして、僕みたいにネットで集客する場合、署名捺印をいただくのはそれだけでかなりハードルが上がります。もちろん、オンラインでそういう契約を結べるサービスもあるにはあります。

CLOUD SIGN

ただこれも、オンラインではるけれど、契約を結ぶ手続きが必要で、事務所にとっても顧客にとっても面倒であることに変わりありません。場合によってはそんな面倒ならもういいという人もいるかもしれません。そうなると大変な機会損失になります

そこで利用規約の出番です。事務所サービスの利用規約を用意しておけば、署名捺印などいらず、同意してもらうだけで契約の代わりにできます。

ただ、従来の民法では、利用規約の扱いが曖昧で、トラブルの元になっていたそうです。そこで改正民法では、利用規約(民法ではもっと広い意味で定型約款といいます)の扱いを明確化し、正式に契約として扱う事が可能になりました。

これ、事務所にとって福音ですよね。民法に則った利用規約を用意しておくだけで、契約として活用できるわけですから、やらなきゃ損です。

もちろん僕の事務所でも利用規約を活用して、業務を効率化しています。

120年ぶり!?の改正民法について

民法は、経済活動の基本的なルールを定めているものであり、1896年に制定されました。その後、若干の改正はされたものの、今回のような大幅な改正は初めてです。裏を返せば、約120年前の契約のルールが現在に至るまで使われてきたということです。

民法は、日々の生活に関わる最も基本的な法律ですが、約120年もの月日を経て、時代の流れが変化したり、当時存在しなかったサービスが現れたりするなどして、現在の経済活動とずれが生じてきました。

そこで、「新しい時代に合った民法に修正しよう!」というのが今回の民法改正の目的の一つです。

また、約120年の年数をかけて蓄積された裁判の判例や取引実務で通用しているものを、民法の条文にも組み込んで「国民に分かりやすい法律にしよう!」というのももう一つの目的です。

主な改正民法の概要は以下のとおりです。

法務省HP「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」を参考に著者作成

(2019年11月24日アクセス)

このように、今回の民法改正では、売買や賃貸借契約に関するルールが変わっています。上記の表だけでは内容の理解が難しいと思いますので、興味のある方は、ぜひ法務省HPのパンフレットを読んでみてください。カラーで分かりやすく説明されています。

そして、今回の記事では、上記の改正の中で、「定型約款」について詳しく説明していこうと思います。「定型約款」は、保険約款やWeb・アプリで提供されるサービスについての利用規約などが該当します。

FPコンサル事務所で、HP等に利用規約を掲載している方や商品・サービスごとに利用規約を作成している方は適切に修正していきましょう。

改正民法の利用規約に関するポイント

定型約款(利用規約など)とは

まずは、定型約款とは何かについて説明しようと思います。

定型約款とは、「不特定多数のお客様に対して、合理的かつ画一的な内容の契約を一方的に用意した条項の総体(約款)のこと」です。噛み砕いて言えば、大勢のお客様と契約を結ぶために、あらかじめ「こういう条件でこのようなサービスを提供します」と勝手に決めて示したルールブックのようなものです。

一般的に、1対1の取引であれば、個々の契約者と契約条件を交渉して、それぞれ違った契約を締結することとなります。しかし、1対多数となってくると、個々に契約内容を交渉するのに手間がかかり、効率的ではありません。そのため、大量の取引を迅速に行うために、定型的な取引については、事前に細かな条件が書かれたルールブック(定型約款)が作成され、これに顧客が同意すれば、契約成立となる仕組みです。

この定型約款の具体例としては、鉄道・バスの運送約款、電気・ガスの供給約款、保険約款、インターネットサイトの利用規約などがあります。利用規約は定型約款の一形態という位置づけです。

FP事務所の場合、個別契約とするか利用規約にするかの判断が分かれますが、同じサービスを繰り返し別々の顧客に提供するような場合に、利用規約を用意しておけば業務の効率化を図れます。

以下、利用規約と書いた場合、法律上の定型約款の一形態を指します。

定型約款(利用規約など)に関する規定新設の背景

そもそも、なぜ今回定型約款に関する規定が新設されることになったのでしょうか?

その背景には、インターネットが普及して、ネット取引が盛んに行われるようになったことが挙げられます。

公共交通機関や電気・ガスなどの公共サービスにおける運送・供給約款や保険約款は、運送事業法、電気・ガス事業法、保険業法などである程度規制がかかっています。

そのため、長々とした小難しい定型約款を読まずに契約締結(電車に乗ったり、引っ越し先で電気業者と契約結んだりなど)してしまったとしても、予想もつかない不当な条件が実は入っていた!なんてことはあまりないと思います。

しかし、近年は取引が多様になってきて、公的なコントロールが及ばないものも出てきました。その代表例がネット取引です。

インターネットなどでソフトウェアやアプリをダウンロードしたり、ネット上でサービス申込などをしたりする際に、長々と契約条件(約款)が表示され、「上記契約条件に同意します」のボタンをクリックするよう促され、先に進むためにたいして読まずに同意をクリックした経験のある人もたくさんいることと思います。

大抵の申込や取引では、それで済んでしまうことも多いと思いますが、いざトラブルが起こった時に、思いもよらない不当な契約条件が入っている可能性もあります。その場合、膨大な量の小難しい契約条件をすべて読まなかったのが運のつき(笑)ということで、不当な契約条件を呑まなければならないのでしょうか?それとも信義則違反で無効を主張できるのでしょうか?

実は、民法の原則では、契約の当事者は契約の内容を認識しなければ、契約に拘束されないことになっています。つまり、該当の契約条件に目を通してなければ、不当な契約条件を呑まなくてもよいことになります。

しかし、どうしたら「契約の内容を認識していない」ことになるのでしょうか?契約条件に実際に目を通したかどうかは当事者にしか分かりません。契約条件に同意している時点で認識していると考えられるのではないでしょうか?

改正前民法では、その点があいまいでした。

では、どのような場合に契約条件が契約内容となるのか?「契約内容を認識した」と判断できるのか?そのあいまいな点をはっきりさせたのが、今回の定型約款の規定の新設です。

また、最初に合意した定型約款が、その後変更され、知らないところで不利な条件が入れられていたということも避けなければなりません。

そのため、改正民法では、定型約款が契約内容となるための要件、定型約款の変更手続きについて明文化されました。

定型約款(利用規約)に関する改正民法における規定

まずは、今回新たに設置される改正法について説明し、のちに具体的にどのような利用規約を作成・修正すればよいかについて説明します。

この記事を読んでいる人は士業事務所やFP事務所の方が多いと思われますので、わかりやすさを優先して以下利用規約という用語をメインに用いますね。

次の表に利用規約(定型約款)に関する改正法をまとめました。

利用規約が契約内容となるための要件

まずは、利用規約が契約の内容となるための要件についてですが、
①組入れ要件を明示すること
②不当条項が入っていないこと

が要件となっています。

①の組入れ要件とは、「利用規約の各条項が契約内容となること」のことです。

つまり、この利用規約は契約内容であるということを明らかにしておく必要があります。具体的には、以下の2点の場合に明示していると認められます。

  • 利用規約を契約の内容とする旨の合意があった場合
  • 利用規約を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に表示していた場合

上記2点のいずれかを満たせば、相手方が利用規約の個別の条項まで目を通していなかったとしても、合意したものとみなし、契約内容となります。

ただし、定型取引の合意の前に、相手方から利用規約の内容を示すよう請求があった場合に、正当な理由なく拒んだ場合は、利用規約の条項の内容は契約内容とならないため、注意が必要です。

②の不当条項とは、相手方の利益を一方的に害する契約条項であって信義則(民法1条2項)に反する内容の条項のことです。具体例としては、高額な違約金やキャンセル料を支払わせる条項や、解約を一切認めない条項などがあります。また、本来の取引とは無関係の商品を合わせて購入しなければならない条項(不意打ち条項)も不当条項に含まれます。

利用規約の中にこのような不当条項が入っていたとしても、この条項については、契約内容とはなりません。つまり、顧客にとって、不当条項は無視できることになります。高額な違約金を支払う必要はないですし、解約もできますし、無関係の商品を購入する必要もないということになります。

利用規約を変更する場合の要件

③については、長期的に継続する取引では、法令の変更や時代の変化に応じて、利用規約の内容を変更する必要が生じる場面があります。

そこで、今回の改正では、利用規約の変更がどのような要件の下で可能なのか明確にしています。利用規約の変更は、以下の実体的要件及び手続的要件を満たした場合に限り可能です。

まずは、実体的要件について説明します。

⑴について、変更が顧客にとって利益になるものであれば、同意なく変更できます。例えば、利用料を減額したり、利用できるサービス内容を拡充したりする場合などがあります。

⑵について、変更が合理的であれば、同意なく変更できます。

変更が合理的であるか判断する際には、変更の必要性、変更後の内容の相当性、利用規約の変更をすることがある旨の定めの有無や内容、顧客に与える影響やその影響を軽減する措置の有無などが考慮されます。

次に、手続的要件についてです。

実体的要件のいずれかを満たすことに加えて、利用規約の変更内容、効力発生時期を周知する必要があります。実体的要件⑴及び⑵どちらの場合でも、必ず周知する必要がありますが、⑵の場合は、事前、つまり効力発生前に周知しなければならないので、注意が必要です。

つまり、合理的ではあるが顧客にとって利益がない変更(2)の場合は、「事前の」周知が必要となります。顧客にとって利益の変更(1)の場合は、事前でも事後でも構いませんが、周知は必要です。

周知する方法としては、HP上のトップページのお知らせなど利用者が見やすい場所に告知したり、各利用者に電子メールや書面で連絡したりする方法があります。FP事務所なら、後者の方法が適していると思います。

約款中に「当社都合で変更することがあります」と記載されていても、一方的に変更ができる訳ではなく、必ず周知しなければならないため、注意が必要です。

利用規約の内容例

次に、改正法の内容が分かったところで、具体的にどのように利用規約を修正すれば、改正民法に対応できるのか説明しようと思います。

まず、①組入れ要件の明示への対応については、サービス利用や契約・申込の際に、閲覧する画面上に必ず利用規約を明示し、「利用規約に基づいて、契約を締結します」というボタンを設置するということなどが挙げられます。

ポイントとしては、利用規約及び「契約締結する」旨の明示です。利用規約の内容の表示は、利用規約を契約内容とするための要件にもなっています。また、「契約締結する」旨を明示するだけでも足りますが、さらに相手方にボタンを押してもらうことで合意を得たことになり、確実に利用規約を契約の内容とすることができます。

②不当条項の規制については、以下の対応が挙げられます。

  • 不当条項に該当する可能性のある条項を削除する
  • 重要事項として利用規約から抜粋して別途画面を設け、個別に同意ボタンを用意する

全く損害賠償を保障しないなど顧客に一方的に不利になるような条項があれば、削除するか、個々の条項を表示して、それぞれ同意するかどうか顧客がチェックできるようにしておきましょう。

③利用規約を変更するための手続きについて、あらかじめ利用規約に載せておくとよいでしょう。利用規約を同意なく変更できる旨の条項が入っている約款もあると思いますが、それだけでは不十分のため、民法改正に対応した記載例を以下に載せておきます。

第〇条(利用規約の変更)

1 当社は以下の場合に、当社の裁量により、利用規約を変更することができます。

⑴ 利用規約の変更が、ユーザーの一般の利益に適合するとき。

⑵ 利用規約の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更の内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

2 当社は前項による利用規約の変更にあたり、変更後の利用規約の効力発生日の1か月前までに、利用規約を変更する旨及び変更後の利用規約の内容とその効力発生日を当社ウェブサイト(URL:        )に掲示し、またはユーザーに電子メールで通知します。

3 変更後の利用規約の効力発生日以降にユーザーが本サービスを利用したときは、ユーザーは、利用規約の変更に同意したものとみなします。

改正民法が利用規約に与える影響と対策まとめ

今回は、FPコンサル事務所で利用規約を作成している方向けに、改正民法のうち、定型約款(利用規約)の新設についてまとめてみました。もう一度、ポイントを列挙しておきますね。

  • 利用者に対して利用規約が契約内容となることの明示が必要です(ボタン等で同意が取れればベスト)
  • 利用規約のうち利用者に一方的に不利になる条項は無効となるなど、注意が必要です。これは利用規約を変更する場合も同じです。
  • 利用規約の変更は一定の要件の下(※)で同意なく可能です。ただし利用者への周知が必要です。具体的には
     ・変更手続きを利用規約内に明示する。
     ・変更時に、変更する旨と変更内容、有効となる時期を利用者に周知する。
     ・特に顧客にとって必ずしも利益とならない変更の場合は「効力発効の前」に周知する必要がある。

※利用者が不利になったり、変更の理由が合理的でなかったりする変更の場合は利用者への同意が必要となります。逆にいえば、利用者に有利、または合理的な理由で変更する場合は同意の必要はありませんが、上記のとおり周知手続きを踏む必要があります。

改正民法は、2020年4月1日から施行されます。利用規約に関しては、施行日前に締結された契約にも、改正後の民法が適用されます。しかし、施行日前までに反対の意思表示をすれば、改正後の民法は適用されないことになりますので注意が必要です。

改正民法が施行されるまで、残りわずかとなってきました。ぜひ、早めに利用規約を見直して、改正後の民法に対応できるよう修正してみてください。

ルールに則った利用規約を作れば、あなたも顧客も気持ちよく、かつ効率的にサービスを提供できます。ぜひ参考にしてくださいね。

※注 本記事は筆者の解釈により執筆したものです。ご利用は自己責任にてお願いいたします。個別の法律の判断についてはご自身の責任で行うか、法律の専門家までお問い合わせください。利用規約の個別の内容や運用方法については、専門家によるリーガルチェックを受けることをお勧めします。

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